VectorCraftは、ロゴや図版を作るための無料のベクター編集アプリです。パス編集、合体・型抜き、ブレンド、画像トレースなどを備えています。ただし、Illustrator形式の編集データを保った受け渡しと、日本語の細かな組版には制約があります。SVGやPDFを完成物として渡す作業と、AIファイルを再編集してもらう作業を分けて選びます。
確認日:2026年10月21日。VectorCraft v0.14.0の公開資料を基準に比較しています。実機での再現・速度測定は含みません。表の「掲載」は公式資料に記載があることを示し、同名機能の処理結果や安定性まで一致するという意味ではありません。
最初に押さえたい違い
| 比較する点 | Illustrator | VectorCraft |
|---|---|---|
| 主な用途 | ロゴ、イラスト、印刷物、ベクター素材 | 同種のベクター制作。開発段階はalpha |
| 費用 | 有料サブスクリプション | アプリは無料 |
| 標準データ | AIを中心とした編集・受け渡し | 独自JSON形式。SVG・PDF・AIの対応範囲に差 |
| 選ぶ際の分かれ目 | AI再編集、細かな組版、既存の拡張機能 | 新規図版、SVG主体、MCPによる制作 |
詳細な機能と制約の出典:VectorCraftの機能説明、既知の差分、機能別の評価。
機能を細かく比較
| 機能・作業 | Illustrator | VectorCraft |
|---|---|---|
| ペン・パス | アンカー、曲線、直接選択、パス編集 | ペン・直接選択・パス操作を掲載。修飾キーなどの挙動に差 |
| 図形の合成 | パスファインダー、シェイプ形成 | 同種機能を掲載。実データでの操作差は残る |
| 塗り・外観 | 複数の塗り/線、透明、クリッピング | 外観、透明、マスク、スウォッチを掲載 |
| ブレンド・メッシュ | ブレンド、グラデーションメッシュ | ライブブレンド、メッシュ、エンベロープを掲載 |
| 繰り返し・遠近 | リピート、遠近グリッド | 放射状・グリッド・ミラーのリピート、遠近操作を掲載 |
| 画像トレース | ラスター画像をパスへ変換 | 画像トレースを掲載。輪郭精度とパス数は要比較 |
| アートボード・書き出し | 複数ボード、画面向け書き出し | 複数ボード、複数サイズの書き出しを掲載 |
| 日本語組版 | 文字組み・禁則・縦中横など | 日本語UI・縦書きの基礎あり。禁則設定・文字組み・ルビ等に不足 |
| 3D | 3Dとマテリアル、関連する出力 | 回転体・押し出し・ベベル・膨張・回転を掲載。マテリアルや3D出力に不足 |
| 印刷・PDF | CMYK、特色、PDF/X等の設定 | PDF/X、印刷、パッケージを掲載。入稿再現性は別途確認 |
| AI・EPS | 自社形式の編集・保存 | PDF互換AIや旧形式AIに対応。独自編集データの完全保持は不可 |
| 生成AI | ベクター生成・生成再配色など | 同等の生成AI機能は未実装として掲載 |
| 自動化・拡張 | アクション、スクリプト、プラグイン | アクション、変数、バッチ、MCP。Illustratorのスクリプト・SDK互換とは別 |
AIファイルの互換性をどう判断するか
VectorCraftはAIファイルを一切扱えないアプリではありません。PDF互換のAIに加えて、旧バージョン7形式のAIの読み書きも掲載されています。ただし公式の差分資料では、実ファイルのレイヤー数、グループ、ガイド、ライブ効果などに差を挙げています。
PDF互換で書き出したAIは、表示できてもIllustrator固有の編集データを完全には保持しません。旧形式ではレイヤーや文字を残せる一方、1ファイル1アートボードとなり、透明・ライブ効果・オブジェクト名などが失われます。拡張子が「.ai」であることだけでは納品条件を満たせません。
受け渡し先が画像だけ必要ならPNG、Web用パスならSVG、印刷用の完成データなら指定されたPDFが候補です。AIの再編集が必要なら、相手のIllustratorで文字・レイヤー・効果まで確認してもらいます。
日本語が入力できても組版は同等ではない
Illustratorには日本語の文字組みと禁則処理があります。禁則処理は行頭・行末に置く文字を調整し、文字組みは句読点や括弧の前後の間隔を制御します。長い文章や縦組みの紙面では、この差が改行や見栄えに影響します。
VectorCraftは日本語UIと基本の縦書きを掲載していますが、ルビ、文字組みセット、禁則設定、手動の縦中横は差分として残っています。短い見出しを入力できた結果だけで、日本語のチラシや冊子まで同じ品質で作れるとは判断できません。
印刷・画像トレース・3Dで残る違い
VectorCraftにはPDF/Xや印刷の機能があります。CMYKや特色の名前があるかだけでなく、使用する出力プロファイル、塗り足し、オーバープリント、透明の処理を印刷会社の指定と合わせて確認します。印刷の設定を詳しく調べる場合はAdobe公式の印刷機能の解説を参照できます。
画像トレースは両アプリにありますが、同じ画像から同じパスができるとは限りません。小さな穴、鋭角、色の境界、アンカーの数を見ます。ロゴなら元画像と重ねて輪郭を確認し、その後の編集のしやすさも比較します。
3Dについては資料の更新時点にも注意が必要です。最新版の差分資料には回転体だけでなく押し出し・ベベル・膨張・回転も掲載されています。一方、マテリアル、レイトレーシング、3Dファイル出力などは不足しています。「3D対応」をIllustratorの3D機能全体と同じ意味で扱わないようにします。
自動化とプラグインの移行
VectorCraftではアクション、バッチ、変数とデータセット、MCP経由の操作が案内されています。図版を反復生成する用途に使えますが、Illustrator用JavaScriptをそのまま実行できるという意味ではありません。
独自のWebAssemblyプラグイン機構もありますが、IllustratorのC++プラグインを読み込む仕組みとは別です。既存の有料拡張や独自スクリプトを使う仕事では、同じ作業を別の方法で再現する工数も比較対象になります。
料金・対応環境・導入方法
VectorCraftは無料で配布されているオープンソースアプリです。Windows・macOS・Linux向けの配布があり、WebAssembly版も案内されています。ただし、ブラウザー版の配布物と、すぐ使える公開Webサービスは別です。CPUの種類に合う配布物と、各リリースの注意事項を確認してください。
VectorCraft公式ダウンロードからランチャーまたは単体版を選べます。紹介ページとGitHubでバージョンが違う場合があるため、本記事の基準はv0.14.0のリリースです。
Adobe側は有料のサブスクリプションです。単体、写真向け、複数アプリ、学生・法人向けで条件が違うため、Adobe公式のプランと価格で契約期間と支払い方法をそろえて比較してください。
アプリの無料配布には、Adobe Fonts、Adobe Stock、有料プラグイン、外部AIサービスの利用権は含まれません。ソフトウェアのライセンスと、使用するフォント・素材・追加モデルの条件は別に確認します。
移行前に自分のデータで確認すること
- 文字、複数アートボード、配置画像、透明、ブラシを含むAIの複製を開く。
- レイヤー数、グループ、フォント、ガイド、ライブ効果が保持されたか調べる。
- SVG・PDF・必要ならAIを書き出し、受け渡し先のアプリで開き直す。
- 縦組み、句読点、括弧、数字を混ぜた日本語で禁則と字間を確認する。
- 印刷に使う場合は、入稿先指定のPDFで色・特色・透明・塗り足しを確認する。
どんな用途で選ぶか
Web用アイコン、SVGの図版、自分で完結するイラスト制作ならVectorCraftを試す候補にできます。AI形式で編集データを返す仕事、日本語組版を細かく整える印刷物、Illustrator専用プラグインが必要な作業では、Illustratorを継続する理由が残ります。
参照した公式資料
- Crafting Apps全体の案内
- VectorCraft v0.14.0 リリース
- このバージョンの機能説明
- このバージョンの既知の差分
- このバージョンの機能別評価
- Illustratorデスクトップヘルプ
- Illustratorの日本語組版
- Illustratorの画像トレース
